ブログ「ヒデヲの間」
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2020年8月
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2020年08月03日

私は、映画を一人で見に行くのが好みなので、
映画をアトラクション化して皆で体感する4DXなるものに全く興味がなかったんだが。

押井守の「パトレイバー」が4DX限定で上映されてると聞き、
大好きな映画なのに映画館で観たことなかったので、
ホントにやむなく孤独に4DXを体感することになった。

映画館に到着すると早速スタッフに
「4DX専用のロッカーがございますので荷物はそちらへ」
との案内に戦慄がはしる。
荷物吹っ飛ぶくらい動くのかよ…マジか…。

さて、席に着くと、いかにもパトレイバー好きそうな男女がちりちりに座ってる。
ふと肘掛けを見ると「ウォーターオン・オフ」のボタンを発見!
早速日和った判断発動、ウォーターをオフにさせてもらう。

さて、映画上映。
レイバーが動くたび座席がぐいぐい動く。
動きに慣れててきたかなと思うと、後頭部から空気砲みたいなのが出る。
弾が発射されれば会場にフラッシュがたかれ。
着弾すると会場にスモークが出る。
あまりのモノモノしさに、冒頭は全然映画に集中できない。
孤独な闘いのはじまりだ。

物語中盤、押井守特有のキャラクターが延々と難しい言葉を喋る時間。
これが半分くらいしか意味がわからんくても、なぜか気持ち良い。
無茶苦茶集中したところで、スクーター動いただけでまた椅子がぐいぐい動く。
そうだった、4DXだった。

スーンとした空気感の中、映画の中に感覚を溶け込ませていって。
ぬるま湯の中にいる自分のように、自分の体と映画との境目が段々なくなっていって。
いつの間にか、映画の中から抜け出せなくなる。
それが、私の映画館における快感だ。

しかし、
椅子が動けば「あ、私は椅子に座ってんだな」
煙や光が出れば「あ、私は映画館にいるんだな」
と、作動するたびに映画の世界から現実へ強制的に引き戻され、非常に我に返るシステム。
それが4DX。

さて、物語が佳境に入ったところで、けたたましくサイレンが鳴る。
なんたる臨場感と思ったら。
「地下駐車場で火災報知器が鳴りました」と、映画が中断になった。
おいおい、さすがに4DX過ぎだろ。現実過ぎ。

結局誤報の確認が取れ、映画の再開がアナウンスされホッとする。
フィルムの時代って、突然フィルムや映写機にトラブルがあって映画が中断することがあった。
まさか、時代の最先端4DXの現場で昭和的な中断を味わうことになろうとは。
と、それなりに感慨深い気持ちになった。

再開。
物語佳境に入ると、映画内で台風接近。まさか…。
嫌な予感は的中し、ウォーターボタンオフも何のその。
隣や上から水がたくさん降ってくる。
こりゃ、何かの苦行か、と思いながらも。
もしあの時火災がホントに起きてたら、映画の後半すら見れなかったわけで。
そのまま映画をみれる嬉しさを噛みしめて、4DXを受け入れクライマックスへ。
やっぱ映画館で観ると感動が全然違うサイコーなエンディングとともに映画は無事なんとか終了した。
頑張った。

とはいえ、だ。
まるで水の中に入ったかのように体感しても、実際は全く濡れてないのが映画の良いところ。
実際に濡れてどうすんじゃ!
映画は感覚の覚醒装置であって、実際にそれが起きるんじゃ情緒も何もない。
千利休イズムよろしく、一畳半の茶室に宇宙を感じるのが詫び寂びってもんでしょ。

というわけで、
私の孤独4DX初挑戦。
「4DXは私には肌が合わない」という非常にしっかりした結論を獲得し旅は終了した。

そんな思いを旨に映画館を後にすると、出口でスタッフが、
「大変ご迷惑をおかけいたしましたので、こちら4DX特別招待券です」
と、チケットを渡された。

4DXの旅はつづく、らしい。

 

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